本講座の目的
経営計画の作成を通じた、自社の経営力強化です。
計画書の作成はあくまで手段であり、目的は自社を強化し改善されることにあります。
SR経営計画とは
SはSimple=単純、明解の頭文字。どんなにすばらしい計画も複雑であれば、理解されません。社員全員で理解し、納得しなければ行動に移れない。行動しなければ成果は0です。むしろ、行動しないことは衰退を招いてしまいます。だから計画がSimpleであることは大変重要な事です。
RはRepeat=何度も繰り返すの頭文字。1度や2度で成果が出る事はありません。たとえ、たまたま上手くいったとしても、継続的に成果を生んでいくことは出来ません。
様々な経営の知識やスキルを習得しても、知っているだけでは意味がありません。
これらは使いこなして、行動に移してこそ、意味がある。成果につながるものです。
『知っていると出来るは違う』のです。
知っているを出来るに変える唯一の方法は、『繰り返し実践する』
これしかありません。
ビジネスモデル俯瞰図
自社の商品やサービスの流れが、外部の人にもわかるように図式化したもの。
ここでいう、外部の人とは多くの場合、金融機関の人々の事です。。
我社の事を知らない、外部の人に、わが社の事を的確に伝えることが出来ますか?
同業種の中でも、同じ会社は1つもありません。我社なりの特徴や、流れを説明するとともに、わが社のビジネスを見つめなおすきっかけにもなります。
どんな仕入先からどんな材料をどれくらい供給されて、
自社の中で、どんな流れで、仕事を分担し、付加価値をつけて
どんなお客様にどのような方法で提供しているのか。
それらを俯瞰できる図を作成します。
アパレル製造メーカーの例
経営計画書とは
組織が目標を達成するためのシナリオの事です。組織とは、複数の人間が集まって構成されるチームです。
どんな目標に向かって、どのような方法で、どんな役割分担で、いつまでにどう行動するのか。それらをシンプルにかつ、明確にしているのが経営計画書です。
到着すべき明確なゴール⇒(目標)
到達するための登り方⇒(手段方法)
確実に到達させる仕組み
⇒(管理システム)
これら3つを明確にしたものです。
経営計画書が必要な理由①
事業承継が必ずやってくる
大変優秀な経営者が長年率いてきた企業も、いずれ、いつの日か事業承継をする日がやってきます。その時、後継経営者が先代と同じような才覚や経営センスを持ち合わせていないかもしれない。
経営者の交代によって企業が大きく変わってしまう事は珍しくありません。
次世代の経営者が十分な経営力を身に付けるためにも正しい分析と戦略立案によって作り上げられ修正を繰り返していく経営計画書は必ず必要です。
また事業承継をスムーズに行うためには、株対策や、資金計画など十分な時間をかけて進めていくべき項目が少なくありません。
経営計画書が必要な理由②
環境が激変する
コロナが終わったら、いやこのまま新たなウイルスによりこの状況が続いてしまったら
人手不足が急速に進行してしまったら。
ITやAIはすごいスピードで開発されています、それらが及ぼす影響は。
脱炭素社会は国の大きな指針になっています。それらは他人ごとでしょうか。
国の財源を調べれば今後、社会保障どうなっていくかは想像難しくありません。
これらは本当に対岸の火事ですか?
『我社は大丈夫、対策は万全だ。』
『対策を社員全員が理解し、共有している。』
そう自信を持って言えますか?
もしかしたら、その対策は社長の頭の中だけにあるのではないですか?
『伝えたと理解した、は違います』
一度伝えただけでは、ほとんど社員さんは理解していません。
なぜなら、社長が見る景色と社員さんが見る景色は違っているからです。
会社全体の舵取りが仕事の社長と、日々、細部に目を凝らして行動しなくてはいけない社員さんとでは仕事の中身も、思考の仕方も違います。違って当然です。
理解しないで、自分なりに頑張った時、それは間違った頑張りになってしまいます。
そのチームの事を『烏合の衆』と呼びます。
烏合の衆の3つのない
①成長がない=間違った頑張りをして、評価されないければそこには成長がありません。個人の成長がなければ、会社の成長もありません。
②成果が出ない=間違った頑張りだと、求められる成果は出にくくなってしまいます。この状態が長く続くと、組織は疲弊し、モチベーションは下がってしまいます。
③幸せになれない=成長がなく、成果が出ない組織では幸せになることは難しいでしょう。同時に自分の大切な家族を犠牲にしてしまう事になりかねない。そこでは企業力の強化は期待できません。
では、どうすればいいのか?
それは個人への期待(役割)を明確に示してあげる事です。
全体の進むべき方向、部門の役割分担、そこに属する自分という個の役割が何なのかを単純明確に示してあげる。
いつまでに、何を、どのような状態で成し遂げてもらいたいのか、その為に必要なスキル、能力は何なのか。それらを明確に示してあげる。
人間は期待に応えようとする生き物です。だから、その期待に応えてくれた時には、一緒になって喜んで、ほめたたえ、感謝する。するとまた次の課題に向かって走り出してくれる。人間は褒められたらより褒められたくなる生き物です。
ビジネスで知っておくべき3つの事
多くの優秀な経営者には、ある共通項があることに気が付きます。
それは、以下の3つに対してすごく敏感で、こだわり、常に情報を集めている事いう事です。
①業界を知っている
自社の属している業界の様々な、情報、法律や、競合他社の動き、傾向性について常にアンテナを張っていて、把握している。しかし、自社の事ばかりに目が向きすぎているとこの大きな流れが見えなくなってしまう。それらはいずれ大きな脅威にならないとも限らない。
②自社を知っている
知っていそうで、意外と知らないのが自分自身(自社)の事です。
財務状況という健康状態がどうなのか、金融機関からの見立てがどうで、仕入先や顧客からどう期待され、不安視されているのか、強味や弱み、社会的使命について客観的に把握することは大切です。
③人間を知っている
所詮、ビジネスを行っている顧客も、仕入先も、社員さんも生身の人間です。
その人間を知らずしてビジネスが上手くいくわけがない。
人間はそんなに単純じゃない。様々な側面を持った人間をその場面場面で適切に見極め、対応して行く。これはビジネスにとって最も大切な事だと言えます。
業界を知るためのフレームワーク
PEST分析=わが社のチャンス、ピンチになりうるマクロ的外部要因分析の事です。
経営学者であるマーケティングの第一人者の、ノースウェスタン大学ケロッグビジネススクールの教授、フィリップ・コトラー氏が提唱したもの
Politics(政治的要因)=政治、政権の動向、法改正、税制、業界構造など
Economy(経済的要因)=景気、経済成長率、物価、原油価格、金利、為替、賃金動向等
Society(社会的要因)=人口動態変化、消費スタイル変化など
Technology(技術的要因)=インターネット、ロボット開発等
PEST分析とは上記の4つの大きな要因の頭文字をとった分析手法です。
この大きな変化の中で、特に自社にかかわる変化について分析していきます。
介護施設のPEST分析例
この業界でのPの最大の関心事は介護保険が今後どのように変わっていくかです。
大きな流れとしては厳しくなっていくと想定され、その対策が求められます。
Sの項目では、人口動態を上げました。少子高齢化で高齢者人口が増え、市場規模は大きくなるものの、人口減少によるスタッフ採用が難しくなり、同時に人件費の高騰が予測されます。
Tについては、介護ロボットの導入が不可欠になっていく。同時にそれらへの投資金額が経営に及ぼす影響も考えられます。
このように業界に及ぼす影響、特に脅威について常日頃から情報を収集し検討し対策を講じておくのと、起こってから慌てるのでは結果が違うのは明白です。
自社を知るためのフレームワーク
5フォース分析
経営学者のマイケル・E・ポーター氏が1979年に発表したものです。
競争要因」には、5つの競争要因(5フォース)があり、これが企業の収益性の大きな要因である。外部環境の中のミクロ環境分析を行う際に活用するフレームワーク。
①競合他社の脅威
競合他社の動向によって生じる脅威の事です。低価格戦略を仕掛けようとしていないか、奇抜な新商品を開発して我社脅威にならないか、わが社の得意分野に進出してこないか。5つの要因の中でも特に日々注目しておきたい分野です。
②売り手(供給業者の交渉力)の脅威
材料などの仕入れ先の交渉力によって、利益が少なくなる可能性がないか、競合他社へ自社に影響の大きい取引を行わないか、仕入先自体が競合にならないか。長年の付き合いの上に安住は出来ません。変化はある日突然起こる可能性があります。
③買い手(の交渉力)の脅威
商品を購入する顧客の交渉力によって利益が減少する可能性はないか、過度な取引条件の変更や、値引き交渉などが起こる可能性はないか。あるいは顧客自体が競合になる可能性はないか。『知らなかった』では済まない重大な事が発生するかもしれません。
④新規参入者の脅威
新しい競合他社が参入してくることに対する脅威です。特に成長市場への新規参入は予想されますが、全くの異分野企業が自社の経営資源の活用の為、ニッチ分野へ参入してくるケースも珍しくありません。当然、設備投資等が大きくなる分野の参入障壁は高くなります。
⑤代替品の脅威
代替商品によって自社の商品の必要性が軽減してしまうリスクです。例えば紙の本が電子書籍になったり、貸し会議室がZOOMに変わってしまうようなケースです。
ベビー服メーカーの例
この業界は明らかに衰退業種に属しています。競合他社の市場からの退出が相次ぐ中、残った競合間で行われていることは、他社よりも安くという価格競争です。
しかしながらその競争には勝者がおらず業界全体の衰退を招いています。
また、売り手にとっても業界の衰退は大きな存続問題でありその結果、資材の提供だけにとどまらず、自ら製品をつくり直接小売りに販売する、つまり中抜きの脅威も生まれました。
これらは、買い手についても同様の事が起こります。小売自体がメーカー機能を有し自ら作って自ら売ることへの参入脅威です。
新規参入については、大手の婦人服メーカーが生地や部品、工場の共有化を活かしてベビー市場への参入を目論んできました。ここでは、ベビー商品での利益の獲得というより、市場シェアの獲得が目的となり、価格面では大きな差が生まれました。
最後に代替品の脅威では、メルカリ等のインターネットによるリユース市場が急激に拡大し、特に使用期間が短いベビー服市場には大きな痛手になる可能性が年々増しています。
人間を知る事
バリュープロポジションキャンパス
我々は自社のお客様の事をどれだけ知っているだろうか?もちろん顔は見えており、直接話を聞くことは出来る。しかし、我々の商品やサービスを購入いただける真の理由をどれだけ適格確実に知っているだろうか?
それを考え深堀していくのがこのバリュープロポジションキャンパスです。
アレックス・オスターワルダーにより2015年に発表された著作、『バリュー・プロポジション・デザイン』で紹介されたものです。
①顧客セグメント=自社の顧客がどんな人なのかを記入します。
②顧客がしたいこと=獲得したい状態や、解決したい課題など
③顧客が嫌な事=顧客がしたいことを獲得するにあたり、生じる嫌な事
④顧客の嬉しい事=顧客がしたいことを獲得するにあたり、生じる嬉しい事
⑤顧客への提供価値=わが社が顧客に提供する価値
⑥商品、サービス=顧客への提供価値をもたらす自社の商品やサービス
⑦嬉しい事を増やす要因=顧客の嬉しい事を増やす為の自社の商品サービスの要因
⑧嫌な事を減らす要因=顧客の嫌な事を減らすための自社の商品サービスの要因
高級フレンチ宅配サービスの例
①料理と後片付け、外出が面倒だけど、自宅で美味しいフレンチが食べたいというお客様に対して③外出、後片付けという嫌な事を想像し、④自宅でくつろぎながら気軽に高級フレンチ料理を楽しんでもらおう⇒そのために⑥自社のフレンチ宅配サービスを使ってもらう
このお客様にとっては多少高くても、『味と面倒の解決を優先させたい』というニーズを満たすことが価値に繋がると判断されました。
社員を知る事
社員に限らず、我々人間には様々な側面があります。
それらは、生まれながらに持っているものもあれば、今まで生きてきて経験してきたこと、出会った人との出来事によっても大きく影響しています。
それらの側面には、表に出やすいものもあれば、ひっそり陰に隠れているものもある。しかしいずれもそれら全てを含めて自分です。
しかし、我々はつい、いとも簡単に行いがちなことがある。それは、
『決めつけ』=あの人はこんな人だ。
という烙印を押してしまうという事。しかし
人間はそんなに単純ではない。
色んな側面がその場の状況に絡み合って見え隠れするもの。
であれば、その場で最適な自分の持つ側面を表に出さればいい。しかしそれは簡単な事ではない。幾度もの失敗を経て人は次第に成長しその最適解に近づいていく。
職場で唯一、それらをサポート出来る存在。それが上司ではないでしょうか。
『過去と他人は変えられない』という原則
どんなに丁寧に説明し、心を込めて何度も指導したとしても、当の本人が納得し、理解しない限り変わることはあり得ない。解ったふりをされるだけ、面倒がられるだけ。
では、どうすれば他人を変えられるのか。その唯一方法は、自ら気付くチャンスを与える事です。
仕事を任せ、進捗状況や課題悩みを聞いてあげる、そして、ここぞという時に、与えるアドバイス、あるいは叱責。
しかしこれが難しい。場合によっては失敗もある。よかれと思った一言が逆効果だったり、場合によっては潰してしまうことだってある。
だから深く考え、正解のない答えを探し続け、失敗したなら素直に反省し、また続けていく。
それが上司であり、仕事なのかもしれません。
それらは、とてつもない重荷。
しかしその先には、必ず成長という成果が待ち受けてくれているものです。
4つのマネジメントスタイル
様々な側面を持つ部下に対するマネジメントスタイルとして
①叱責型=『なにやってるんだー』と厳しく叱る
②指導型=『ここやこうやるんだ』と適切な指導を行う
③慰め型=『お前も大変だよな、よくわかるよ』と理解をする
④放任型=『あいつは言わなくても解ってる』と放任する
あなたのスタイルはどれですか?
もちろん正解はありません。正解があるとすれば、部下が自ら気付き、成長し、成果を出せる方法という事になります。
それらは、部下の個性、状況や課題の難易度、周りの状況など様々な要因で違ってきます。
はたして今、私はどう行動すべきなのだろう?そう悩み苦しんだ時、思い浮かべる存在が
『師匠』と言える人
窮地に陥った時、『あの人ならどうするだろう』と思える人。
歴史上の人物でも、身近な上司でも、親でも先輩でもいい。
苦しくてたまらないとき、『でも、あの人なら逃げないだろうな。』そう思えたら、不思議な勇気が湧いてきた。
怒りにまかせて行動しそうになったとき、『きっとあの人なら笑い飛ばしてるだろうか』そう思えたら、自分の小ささが恥ずかしくなり、落ち着きを取り戻した。そんな人(師匠)を持つことは実に有難い事。
そしていつの日か、遠い先かもしれないが、私自身が『師匠になる』
『あの人のお陰で今の自分がある』そう言ってもらえる存在になる。
その為なら、日々の努力、修行を行っていく価値はあるのかもしれません。